2011年8月 2日

再筆:JDとLLM

ロースクール留学を考えるとき、まず最初に現れるのが、JDかLLMかという問題です。3年間JD課程を体験してみて、実際どう思うか、どっちにすべきかを書きたいと思います。私の通った学校のことをベースに書いているので、全ての学校に当てはまることばかりではないかも知れないということをご承知おきください。

まず再三書いているように、アメリカのロースクールには基本的にJD、LLM、SJDという3つの学位があり、JDは3年、LLMは1年、SJDは期限なし(研究が終わるまで)となっています。この期間も人によってさまざまで、早く学位がほしい人は夏休みにも授業をとって2年半ぐらいでJDを終わらせてしまう人もいるし、ゆっくり勉強したい人は4年かけても大丈夫です。夜間コースのJDは基本的に4年で卒業になっています。JDはJuris Doctorの略です。アメリカの大学には学部レベル(Bachelor)で法学部がないので、弁護士志望のアメリカ人は必ずこの課程を履修します。卒業すれば、アメリカのどの州においても、司法試験を受けて、弁護士資格を取得することができます。

LLMというのはMaster of Lawsの略で、いわゆる法学修士です(なぜLが2つついているのかは不明)。JDの上の学位とされていますが、これは外国人向けとアメリカ人向けのコースに分かれています。外国人向けLLMは本当に「アメリカ法基礎」という感じで、法律英語の授業があったり、契約法や憲法の要点だけをまとめて授業があったりして、卒論も要求されません。外国の法学部を卒業した人はJD課程を修了済とみなされ、この1年のLLM課程を終わらせるだけで、ニューヨーク州かカリフォルニア州で司法試験を受けて、弁護士資格を取得することが可能です。(アメリカの弁護士資格については、こちらの記事を参照)

一方、アメリカ人向けのLLMは法律研究に重点がおかれており、JDを卒業した後に、という趣旨のコースです。卒論が要求され、社会人経験がないと入学が難しいようです。最近は就職難のため、LLMに進学するアメリカ人JDも増えているらしいですが、このLLMというのが玉石混合で、1年かけてとったはいいが、それほど就職に有利に働かないケースも多いようです。ただ、税法など詳細な知識が要求される分野はLLMの学位が必要と聞きます。

jd_llm3.png
SJDとはDoctor of Judicial Scienceの略で、法学におけるPh.D(博士号)です。私の学校では去年初めて1人輩出し、今年も1人だけこの学位を取得しました。基本的に「本を1冊書く」というのが卒業要件になっているらしいです。学位としては新しいので、どのくらい権威があるのかは未知数ですが、本1冊出版するのは論文数本分の業績とも言われるらしいですし、学術的評価は高いんだと思います。友人が1人SJDに在籍していますが、卒業はいつになるかわからんと言っています。

ぶっちゃけLLMじゃなくJDに行く意味があるのか、という問題を考えたいと思います。まず、アメリカで弁護士になるには、LLMだとほぼ無理だと思います。これはもう間違いありません。JDでも就職難と言っているのに、LLMで就職できるわけがない。私は、LLM卒でかつアメリカで仕事されている方を何人か知っていますが、ものすごい例外です。アメリカで弁護士になりたいなら、「留学費用の節約のためにLLMに行く」というのは選択肢として存在しません。JDしかないということです。

LLM留学のブログを見ていると、LLMはお客さん扱いされているとか、そういうふうに感じた日本人の卒業生も多いみたいですが、傍で見ている限り、LLMがJDと比較して低い扱いを受けているようには見えませんでした。JDと一緒に授業に出ていることも多かったです。ただ、在籍期間が1年というのはやはり短い。私は1年目が終わったとき、本当にJDでよかったなと思いました。勉強したい人には1年だと物足りないはずです。

JD限定の制度もあります。全て2年目以降のプログラムなので、1年で終わるLLMには受けられないのです。まず、企業や非営利団体で現場研修をするexternship(インターンと違い、お金はもらえませんが、授業単位がもらえます)。模擬裁判をするmoot court。成績上位者が編集者になれるlaw review。課外で無償の法律業務をするpro bono。そして夏の海外研修プログラム(私の学校では中国とヨーロッパ)です。これらをやっていると、就職の際のセールスポイントになります。ただ、これも個人の興味によります。企業法務をやりたいなら、moot courtとかpro bonoができるからといって、外国人がJDを選ぶ必要はあまりないと思います。

このように、別にJDだからってスバラシイ特典があるわけじゃないんですが、それでも私は3年かけてJDで勉強するのが一番いいと思います。アメリカ人向けのLLMでやるような高等な分野を学ぶにはアメリカ法の基礎が必要で、いくら日本で法律をやっていると言っても、それを一足飛びにやるのは無理があります。かといって、外国人向けのLLMでアメリカ法の基礎を1年やるだけでは面白くありませんし、本当の基礎は1年では身につかない。逆にアメリカ人のJD卒が日本の法学部で1年勉強しただけで、日本の法律を理解できるかと問われれば、答えは否でしょう。実際、JDの1年目を終わったとき、私がアメリカ法の何をわかってたかというと、何にもわかってなかったと今は思います。

もちろん、費用の問題はあると思います。アメリカで弁護士になるつもりはない、留学費が1年分しか工面できない、だからLLMに行く、というのを私は悪い選択だと言うつもりはありません。私がここで言いたいのは、「ベンツとカローラを比べて、確かにベンツは良い」ということだけであって、「カローラを買うな」と言ってるわけではないのです(乗ったことがないので、実際にはどうなのか知りませんが)。

裏技的な手段として、LLMからJDに接続するというのもあることはあります。私の学校ではアメリカ法基礎の授業単位である12単位がJD卒業要件の90単位から免除され、合計3年半で卒業できるそうです。しかし、LLM卒業後JDに入りなおせるかどうかはわかりません。1年在籍しているのでコネはできているでしょうが、JD入学を許可するかどうかは学校の胸先三寸です。ただ、上位校に入学するのはJDよりもLLMの方が簡単なはずなので(LSATという超難しい試験がLLM入学には課されていないため)、LLMで上位校に入ってそのままJDへというのは魅力的な選択肢かもしれません(その際にまたLSATを課してくる学校だとあまり意味がありませんが)。

コメント

> LLMというのはMaster of Lawsの略で、いわゆる法学修士です(なぜLが2つついているのかは不明)。

Lが2つあるのは"LawS" と複数形だからですね。
(例えば引用の中で本のページを指定するのに、「10頁」単独なら "p.10" になるが「15~18頁」なら "pp.15-18" となるのと同じ。)

では何故複数形になるかといえば、西洋における「カノン法とローマ法の双方を修めた者」という意味の「両法博士」の伝統を引き継いでいるから、のはずだと思います。

> IZW134さん
教えていただき、ありがとうございます。勉強になります。このブログで気になる点などありましたら、ご指摘願えれば幸いです。

ブログ作者様のご意見は留学の目的が「アメリカで弁護士になること」を大前提としてご提供されているものと思われますが、米国ロースクールへの留学志願者の大多数の人はそこまで明確な目標を持たれていないものと思います。
異なる留学の目的を持たれている方がこのブログを読まれた場合、誤解を受けるおそれがありますので、投稿させて頂きます。

私は米国ロースクールLLMに在籍中の者ですが、まず「LLMではアメリカ法の基礎を学ぶだけ」という表現には違和感を覚えます。たしかに基礎科目を学ぶ授業も当然ありますが、ほぼ全てのロースクールにおいてLLMはJDの2年生、3年生が学ぶadvance courseが取得する単位の大多数となるはずです。これは、(留学生向けの)LLM生は法律に関する基礎的知識・思考能力は母国の法学教育にて既に取得しているという前提があるためです。そして、その前提は間違っておりません。つまり、LLM1年をやるだけでは基礎は身につかない、ということはありません。 もちろん米国法の授業を1年間受けるLLMよりも3年間受講できるJDの方がadvantageがあることは否めませんが、あくまで相対的な差であります。そして、日本で既に法律実務に携わっている者の意見としては、実務に出てから法律家として学ぶ割合の方がはるかに高いはずであり、1年と3年という差はあまり大したものとは思えません。LLMは1年のみですが、barをパスすれば、JDよりも2年早く実務につけるという点を無視できないものと思われます。

次にアメリカで弁護士として就職するならJD以外ありえないという事実ですが、LLM向けの就職口が(特に近年は)少ないという点には賛成します。もっとも、LLM留学生は本国で勤務経験を持つ者がほとんどですから、米国にコネクションを持っている留学生もいるでしょう(少数派としても)。また、そもそも本ブログを読まれている方の中には、(作者様が若干指摘されている通り)、「アメリカで弁護士になる」という選択肢以外の可能性も考慮されている方も多数いらっしゃるでしょう。そのような方には、JDとLLMを「ベンツとカローラ」という比喩にて比較をして頂きたくないと思います。「アメリカで弁護士になるつもりはない」と一つの可能性を切り捨てるよりも、「アメリカで弁護士になる」ことを選択肢の一つとして捉えている方が大多数と思いますし、その場合、LLMはカローラではありません。むしろ本国での法的バックグランドを生かし、1年という短期間で米国法曹資格を得られたわけですから、残りの2年をロースクールという座学で過ごすJD生よりも実務の世界に飛び立てるチャンスを得たと考える事が出来ます。

私のコメントはLLM生からの意見でありLLM寄りであることは確かですが、現実に日本人のロースクール留学生のほとんどはLLMを選択しているという事実を最後に付け加えさせていただきます。

> レタスさん

コメントをありがとうございます。ご意見について回答いたします。

まず、「LLMはアメリカ法基礎を学ぶだけか」という問題について。これは学校によって違いますが、本文中にJD生と一緒に受ける授業が多数あることを明記しなかったのは私の落ち度です。申し訳ありません。確かに私の学校でも、24単位中6単位がアメリカ法基礎の科目として必修になっているのみで、残りの18単位についてはJD生と同じ授業を取ることになっています。

次に、「LLMでアメリカ法の基礎を身につけられるか」という問題について。これは非常に感覚的なことであり、基礎とは何か、という根本的な問いにかかわることです。大陸法と英米法の基礎はやはり異なるものであり、たとえ大陸法の国で法律を修めていても、英米法の基礎を1年足らずで学びきるのは難しいと私は考えています。上記の通り、アメリカ法基礎に関する授業はLLMでは6単位に過ぎません。それで憲法や契約法、物権法などの基礎法を網羅できるとは考えられませんし、そういった英米法の根本を、卒業した後に実地で会得するというのは非常に難しいのではないかと考えます。

最後に、「ベンツとカローラという比喩は的確か」という問題について。LLMがJDよりもネームバリューにおいて劣っているのは、否定できない事実です。少なくともアメリカ法については1年しか学んでいないのだから、アメリカ社会でそう評価されるのは仕方のないことです。しかし、ご意見にある通り、JD生よりも2年早く実地に赴くことができるという、実用的なメリットがあります。つまり、「ネームバリューは低いが、安価で、実用的」という点で「カローラ」という比喩は間違っていないと思います。逆にJDは、「ネームバリューが高く、高価で、高性能(授業内容の充実)」という点で「ベンツ」という比喩が適当と思います。

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